放射能汚染した食品の扱いについて(概要)           関澤 純 2011年3月24日朝12時

23日付けで新しい情報をもとに発信をご用意したのですが、その後には水道水からの検出報告と、原子力災害特別措置法に基づき、出荷制限に加え摂取制限の指示が出されるに至り、再検討することになりました。

これまでの放射能検出状況については、NHKの解説でも繰り返していますように、“基準値の何倍”という見出しだけにとらわれず、その意味(その食品ばかりを1年間摂りつづけた場合でも大丈夫)という趣旨で設定されていることをご理解いただくことが極めて大切です。乳児のミルクを溶かすために用いる水道水についても、数回使ったから悪影響が起きるということはありません。放射性のヨー素が子供の成長に必要な甲状腺ホルモンを作る材料として甲状腺に集積しやすく、結果的に高濃度になり甲状腺がんを発症したというチェルノブイリ事故後の報告があるため慎重な対応をとっているものです。現在の検出レベルはあまり心配されるまでにはなっていないと考えられます。

むしろチェルノブイリ事故の後に、低線量レベルのばく露地域で不安ストレスにより人体内で活性酸素を多く生成することになり、この活性酸素が原因と遺伝子を傷つけるために発がんの増加があったのではないかとも推定されています。現時点では被災地域の支援を優先して、無用な買占めや、放射線が検出されていない食品の買い控えなどはされないように願いたいものです。以下は昨日までの情報をもとにご用意した原稿ですので、その点を考慮してお読みください。
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23日未明厚生労働省は新たに福島県産の茎立菜から1キロあたり8万2000ベクレルの放射性セシウム(暫定基準値の164倍)の検出を発表しました。放射性物質は洗えば落ちますが、セシウム137の半減期は約30年間と長く(体内からは比較的速やかに排出されるので実際は約100日で半減する)注意が必要なため、政府は23日にも同県産の葉物野菜やブロッコリーなどについて原子力災害特別措置法に基づき、出荷制限に加え摂取制限の措置をとる方向を検討しているとの報道です。

以下の解説は22日までの公表データに基づいていますが、基本的な考え方は変わらないのでご参照ください。
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食品から放射能検出が報じられ、原子力災害対策本部長名で一部地域と品目について出荷制限の指示(関係事業者に出荷を控えるよう要請)がありました。それと同時に官房長官は健康に被害が出るレベルでないことも再三発表しています。

 実は私たちは日頃から自然放射能(宇宙線、大地、食品中に太古から残存する天然の放射能)を浴びています。この量は1年間に2.4ミリシーベルト(2400マイクロシーベルト)です。

現在検出された最も高い放射性ヨー素の濃度はホウレンソウ1キログラムあたり54,100ベクレルですが、このホウレンソウを10日間連続して食べた(日本人の平均のホウレンソウ摂取量1日15グラムをかけて計算)としても、その合計は単位の換算をして0.18ミリシーベルトになり自然放射能の10分の1以下です。その上ホウレンソウは洗ったり、ゆでると表面に付着した放射性汚染物は相当程度除かれます。実際には最大汚染されたホウレンソウばかりを毎日食べることはありえませんが、仮に数回食べたとしても大丈夫なのです。
最大に汚染された原乳も、仮にそのままを日本人の一日平均摂取量の113グラムとるとして10日間連続して飲み続けても合計0.13ミリシーベルトで、この値も自然放射能の10分の1以下です。ただし子供の場合は放射性ヨウ素が甲状腺という器官に集まりやすく、体の割合に牛乳を多く取るように勧められるので汚染の可能性のある牛乳を避けることを考えても良いですが、成人では心配はありません。
このため流通関係者などが、冒頭の指示をたてに検査結果が出た周辺の食品を一括して仕入れ停止することは控えていただきたく思います。福島県の酪農家が搾乳したばかりの原乳を廃棄している映像がテレビで流されましたが、被災地では食料不足している中で、健康に害がないと分かっている食料を廃棄せざるを得ないとはたいへん残念なことです。このコメントは、正しく理解し行動していただくためのものです。
以下は解説です。
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「食品からの放射能の検出についてどう考えるか?」(解説)

19日厚生労働省から食品衛生法の暫定基準値を超える放射能の検出発表がありました。この発表について食品安全委員会から説明文書が公表されています。この文書では外部被ばく(東京ーニューヨーク間の飛行による宇宙線ばくろレベル(0.1ミリシーベルト)や胃のX線検診の場合のばくろレベル(0.6ミリシーベルト)と比べて低い、あるいは官房長官の説明でもCTスキャン1回分くらいと説明していますが診断の目的で敢えてばく露を選ぶ場合と、食品から摂取する場合とでは事情は違います。これまでの説明では、放射線を外から浴びる場合と放射性物質を体内に摂取した場合(体内に残りばく露は継続する)の違いや、放射線の単位としてベクレル(放射性同位元素の量を示す)とシーベルト(体内に吸収された時の影響を示す単位)の両方が出てきて換算をしているものの分かりにくいところがあります。

今回報告された茨城県産ホウレンソウや福島県産原乳中の放射性ヨー素131による影響の可能性ついて、現在分かる範囲で説明を加えます。もしお気づきの点や疑問がありましたらお知らせいただければ修正したりお答えするようにします。
(1)まず暫定基準値とはそもそもどのようなものでしょうか。国際放射線防護委員会(ICRP:事務局ストックホルム)は、これまでの放射線障害についての研究から、公衆の放射線防護のうち人為的に制御できない自然放射能、飛行機利用による高濃度の宇宙線ばく露やX線検診など本人に利益をもたらす場合を除き、放射線へのばく露を年間1から5ミリシーベルト以下に抑えることを1990年に勧告しました。わが国もこの勧告に沿い原子力委員会は放射性セシウムの防護基準を年5ミリシーベルトにしています。

(2)ここで私たちが制御することができない自然放射能がどの程度のレベルあるかを知っておく必要があります。自然放射能は地域差が大きいですがわが国の平均では、宇宙線から0.38ミリシーベルト、空気中のラドンなどから1.3ミリシーベルト、大地(地球の放射能)から0.48ミリシーベルト、食品(昆布や野菜に比較的多い)に含まれる天然のカリウム40などから0.24ミリシーベルトの合計約2.4ミリシーベルトに年間被ばくしています。

(3)そこで今回の野菜や原乳汚染による追加の被ばくの程度を考えてみます。ホウレンソウ中の放射線量は、ヨー素131は1キログラムあたり最大54,100ベクレルとされています。ここでヨー素131について、ベクレル単位からミリシーベルト単位に換算しないと比べられません。口から体内にとる場合の実効線量係数という換算数値(10万分の2.2)をかけますと、1.19ミリシーベルトという値が計算されます。次にこの最大に汚染されたと思われるホウレンソウを仮に10日間食べ続けた場合は、一日に日本人が平均的に食べるホウレンソウの量が約15グラム(元の数値は1キログラム当たりです)を考慮して1000分の15に10日分をかけると0.18ミリシーベルトになり、これは自然放射能の10分の1以下です。牛乳の場合に検出されたのは1キログラム当たり最大5,300ベクレルだったので、一日に日本人が平均的に飲む量は約113グラムを仮に10日間飲み続けても0.13ミリシーベルトと計算され、この値も自然放射能の10分の1以下となります。セシウムの検出濃度は暫定基準を考慮して低かったので、とりあえずヨーソの結果のみをお示ししました。

(4)ホウレンソウの場合は現時点の汚染は風で運ばれた汚染物が表面に沈着したと推定されるので、洗ったりゆでたりすることでその多くは除かれると考えられますが、牛乳では同じ効果は期待しにくいでしょう。ただしここで最大に汚染されたものばかり数回食べたり飲むことがあっても自然放射能の10分の1以下のレベルですので、健康への影響は深刻に考える必要はないと考えられます。厚生労働省の発表ではこれらの産品は出荷されていないと言っています。また放射性の物質は放射線を出しながらも安全な元素に代わってゆくことが知られています。ヨーソ131の場合は約8日で半分になり蓄積は比較的少ないですが、セシウム137は半分に減るのに約30年かかり(ただし体内から排泄される速度が速く体内では約100日程度で半分に減る)、自然界のカリウム40の場合は12.5億年だそうです。

(5)健康影響ではチェルノブイリの事故では、ヨー素131の摂取に関係したと思われる子供の甲状腺がん(甲状腺にヨー素が集まります)の増加が認められました。甲状腺が体重あたり成人より体重に比べ大きく成長期にあり、牛乳を多くとることを薦められている子供たちの場合には、汚染の可能性のある牛乳摂取は注意しなければなりません。ただし現状のレベルでは心配はいりません。また成人では40歳以上ならばあまり影響は考えられないとされています。

参照した資料
1)食品安全委員会「東北地方太平洋沖地震関連情報」(平成23年3月19日)
http://www.fsc.go.jp/sonota/emerg/emerg_genshiro_20110316.pdf

2)厚生労働省医薬食品局「放射能汚染された食品の取り扱いについて」(平成23年3月17日)http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e.html

3)厚生労働省医薬局「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」(平成14年3月)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r98520000015cfn.pdf

4)原子力百科事典ATOMICA:放射線影響と放射線防護http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-04-02-13

5)文部科学省web: 原子力・放射線安全確保。私たちは普段どのくらいの放射線を浴びているのですか?
http://www.fsc.go.jp/sonota/emerg/emerg_genshiro_20110316.pdf
 
6)牛乳および乳製品摂取量(2007年3月30日)http://unit.aist.go.jp/riss/crm/exposurefactors/documents/factor/food_intake/intake_milk.pdf