ご挨拶

2023年巻頭言

食科協年頭ご挨拶

                        特定非営利活動法人食品保健科学情報交流協議会
                                   理事長 馬場 良雄

 2023年年頭に当たり謹んでご挨拶申し上げます。

 昨年も新型コロナウィルス感染症の影響を受ける中、NPO食科協と致しましては、かわら版やニュースレターの発信、ホームページの活用などに努めると共に、講演会等の開催により、食品衛生関連の情報発信、交流に務めて参りました。特に昨年はNPO食科協設立20周年であり、記念式典の実施と共に記念講演会を開催する事が出来ました事、会員の皆様のご支援の賜と感謝申し上げます。記念講演会ではNPO食科協の理念の基本に立ち返り、「リスクコミュニケーション」について行政、学術、報道等の立場からご講演頂きご好評でした。また、20周年に合わせて「食科協コミットメント」を取り纏め、今後のNPO食科協の活動指針を発信致しました。今後とも、世界的な状況の変化、社会環境・消費者志向の変化、それと共に施行される法規制の変化をとらえ、適切に情報発信、講演会の実施、パブリックコメントの提言などに努めていきたいと思っております。

 本年も新型コロナ感染症の影響は引き続き警戒が必要だとは思いますが、行動制限の解除、新型コロナウィルス感染症の分類を二類から五類に変更する事の検討等今迄の三年間とは大きく変化してきております。経済活動の再開も期待される中、ロシアによるウクライナ侵攻はまだ先が見えず、多くの食品も値上げが発表されていますが、この値上げラッシュのピンチが日本経済復興のチャンスになることを心から願っております。

 さて、食品衛生関係に目を向けますと、2018年の食品衛生法改正から昨年6月で丸3年が経過し全ての改正法令が施行されております。法改正の目的の背景として、国際的整合性と事業者の自主管理と自己責任の推進があろうかと思います。国際的には国際規格等の見直しが進む中、「Food Safety Culture」(食品安全文化)の視点での見直し改訂が進められております。日本では本来持っていた視点であると思いますが、現在どうでしょうか。

 HACCPの義務化につきましても例外ではありません。新型コロナ感ウィルス染症の影響も大きく且つ東京オリンピックも終わり、過ぎ去った過去のものになっていると思っている事業者がいるのではないかと感じるのは私だけでしょうか。自分が経験した小さな事例で恐縮ですが悪い見本のように感じましたので紹介しておきます。先月あるゴルフ場のレストランで昼食に豚汁を食べた時、中々噛み切れないものがあり諦めて口から出しました。よく見ると「傷テープ」でした。健康被害につながることはまず無いとは言え、非常に気持ち悪いものです。申し出したところ「申し訳ありません」の一言でその後何の反応もないのに驚き、帰宅前にフロントにて「原因と対策報告書」を提出するように要求したところ数日後報告がありました。報告書によると「調理作業員の一人が指に傷をして傷テープを装着していました。調理時には作業基準通りゴム手袋を着用して作業していました。しかし調理終了後翌日使用する野菜の準備をする際ゴム手袋をしないで作業しておりこの時傷テープが外れ野菜に混入したのに気付かず作業を終了していました。今後は作業基準を順守徹底します。」という予想通りのものでした。この事例の問題点を2点あげておきたいと思います。一点目は改めて指摘するまでもないことですが、クレーム申し出者に対する初期対応もさることながら、クレーム発生時問題認識と社員の情報共有化の課題です。二点目は食品事業者として最も重要なことですが、作業基準の順守です。作業基準の目的が従業員に理解定着していない為に「傷があるときはゴム手袋着用して調理作業する」という簡単で分かりやすい基準も守れなかったという事です。HACCPの義務化された現在、今一度原点に立ち返り「食品安全文化」の観点で従業員すべてに対する安全意識の理解・共有化と定着を図ることが必要かと思います。高度経済成長時代の「品質の日本」と言われる管理体制が徹底しなければ、国際競争力は上がらず、政府の目指す「2030年食品の輸出5兆円」は達成できないものでしょう。義務化されたHACCPによる衛生管理システムにより食品事業者の「食品安全文化」の醸成が進み、国内のみならず国際競争力が進むことを心から願い、NPO食科協としても情報発信に努めたいと思います。

 もう一つ気になる行政関係の動きの中で、「食品衛生基準行政を厚生労働省から消費者庁移管する」ことを令和6年度施行目指して本年の通常国会に法案提出するとの事が挙げられます。「国民の健康の保護増進」を目的とする厚生労働省から「消費者の保護」を目的とする消費者庁に食品衛生基準の制定が移管されると、その法制化の方向性が大きく変化するのではないかと危惧致します。消費者庁発足時は民主党政権であった事もありますが、消費者が求めるからという理由で国際的整合性、科学的根拠も曖昧な中、表示や行政指導があった事を思い出します。現在の消費者庁が同じ過ちをするとは思いませんが「国民とは誰か、消費者とは誰か」を明確に意識した対応を願いたいと思いますし、必要なら適時パブリックコメントも発出したいと思います。

 NPO食科協は2003年に発足し本年21年目に入ります。昨年からは新たな事業として、新日本法規出版社が発行している「わかりやすい食品衛生の手引き」の改定、編集業務を引受け、進めております。昨年度は84、85、86、87の各号について取り組みました。来年度も既に88,89号について改訂編集に取り組んでおります。かわら版、ニュースレター、講演会等と共に情報発信に努めたいと思います。会員の皆様のなお一層の温かいご支援とご指導をお願いして年頭のご挨拶とさせていただきます。

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